いたがき通信 Web版 Vol.27(2017年春号)

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いたがきは、今年10月2日で創業35 周年を迎えます。これを記念して、「いたがきの誕生の経緯と赤平市」、「赤平市の魅力的な企業」、「いたがきと赤平が目指す未来」の3回に分けて、様々な角度から我が社と赤平市をご紹介します。

赤平へ

北海道のほぼ中央に位置する赤平市は、1994年まで約100年間続いた炭鉱で栄えた町で、貨物発送量日本一を誇った時期もあり、最盛期には約6万人もの人々が暮らしていました(現在約1万1千人)。1960年代に迎えた石炭から石油へのエネルギー転換は、日本有数の採炭地である空知地方に基幹産業の喪失と極端な人口減少という大打撃をもたらしました。板垣英三(現株式会社いたがき会長)が初めてこの地に立ったのは1970年、スーツケースを作る会社の一社員として工場の移転先を視察に訪れた時です。

それは北海道の企業誘致活動に招かれてのことでした。

元々横浜生まれの英三は、東京で革鞄職人の世界に丁稚として飛び込み、修行をした後に、両親と二人の兄とで三協鞄製所という会社を立ち上げます。しかし高度経済成長の波に飲み込まれる形で、神奈川県小田原にあった米国社製の部品をノックダウン方式で製品にするメーカーからの協力要請を受けたのです。やがて折からの旅行ブームで、手狭となった工場は、新天地を求めて北海道赤平市の炭鉱閉山の跡地へと移転します。

市場のニーズをキャッチする力

工場移転当初、指導員として度々北海道を訪れていた英三は、自身の出張時の経験から今ではスーツケースに必須となったキャスターを鞄に付けることを発案し、会社のシェア獲得にも尽力しました。時代はちょうど女性の社会進出が活発化した頃で、旅行家の兼高かおるさんと対談した折に彼女が言った「か弱い日本女性が一人でも海外旅行ができるように、持ちやすい鞄を作ってください」という言葉が、開発マンとしての心に大きく響いたそうです。

やがて工場も軌道に乗り、1976年には一家で赤平市へ移り住みました。当時を振り返れば慣れない北国での生活は、まるで映画「北の零年」のように厳しいものでした。本州から大移動をした家族が赤平の地にすっかり慣れた頃、英三の心に抗いがたいある思いが湧き上がります。「昔ながらの本物の革鞄を作りたい」。それは大量生産の時代には無謀とも言える挑戦でした。しかし妻の貴美子(現副社長)のツルの一声で家族がまとまり、工場からの独立が決まります。1982年10月、当時の赤平市長(佐々木肇氏)の「ぜひ赤平で」という勧めもあり、現在本社のある赤平市幌岡町113番地・旧教職員住宅一棟二戸建を工房に「株式会社いたがき」は誕生しました。

タンニンなめし革への
こだわり

大自然を有する北海道から生まれる本物の革鞄-。英三は忘れられつつあった天然素材のタンニンなめし革に、再び思いを馳せました。そして北海道の地ならではの鞄を作ろうとします。それがいたがきの代表作である「鞍ショルダー」です。堅牢なタンニンなめしの革から、カーブの多い独特のフォルムを作るのは文字通り産みの苦しみでした。しかし、自分が持つ全ての技術を駆使して、同業の高級メーカーからも絶賛される鞍型の鞄を完成させます。

それは同時にタンニンなめしの革がいたがき製品の代名詞となった瞬間でもありました。

創業当時の鞍ショルダー

創業当時の鞍ショルダー

人との繋がり

いくら良いものでも、名もない会社の高価な鞄が最初から売れるはずもありません。創業からの数年間は、慣れない経営に何度も押し潰されそうになりました。問題が起こる度に周囲の方々からの助言やご尽力、時にはお叱りもいただいて細々と営む状態が続きます。そんな折、長女の江美(現社長)をモデルとして掲載された新聞記事から全国の北海道物産展に出展しないかとのお誘いや、さらに赤平出身の方からのご縁がきっかけでJR北海道の「北斗星キーホルダー」に採用されるなど、人から人へと繋がれて少しずつ会社は軌道に乗り出しました。

それでもまだまだ先の見えない状態でしたが、1988年には旧社屋の横にお客様をお迎えする為のショールームを構える事もでき、創立25周年には「はるばる赤平まで来ていただいた方に美味しいコーヒーを」と、英三の念願だったカフェを併設した新社屋が完成しました。そして札幌、新千歳空港、東京、京都にある直営店も、それまでに培ったご縁が形になって、多くの方に商品を見ていただける場所となりました。

今では長女の江美(現社長)オリジナルデザインも定番化し、夫のグナと共にヨーロッパのベジタブル・タンナーから革を仕入れるなど、いたがき商品の可能性は更に先へと繋がって行きます。

1988年 旧社屋横に併設されたショールーム

1988年 旧社屋横に併設された
ショールーム

ものづくりのまち、赤平

「炭鉱閉山後のまちづくりは、未だ北海道の課題である」と聞く中で、近年では赤平市がものづくりの町として注目されるようになりました。我々「いたがき」もその企業の一つだと自負しています。会社には現在100名近くの社員がおり、炭鉱町赤平で幼少期を過ごした人やその時代を知らずに生まれ育った人、全国から革鞄の職人を目指して来る人と背景は様々です。多様な人間が赤平のいたがきに集い、日々地道なものづくりに勤しんでいます。「北海道には純朴で苦労に強い人間が多く、いたがきのような地道な職人仕事にも辛抱強くついてきてくれている」と言う英三の言葉通り、一時期の興亡を経て、何でも吸収しようとするこの地の土壌がものづくりへの情熱を育んでいるのかもしれません。


次号では、赤平の魅力的な企業をご紹介します。

創業25年(2008年)に新築した社屋 エコガーデンファクトリー

創業25年(2008年)に新築した社屋
エコガーデンファクトリー

使うプロからの声使うプロからの声

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今回は社会人になった娘のために「タウンボストンミニ」を購入しました。以前より母親である私のバックを買うたび一緒に店頭に伺っていたので、「いたがきバック」は欲しいと言っていました。製品の良さについて、私のバックを見て知っていたせいか、手に取り、革の香りの良さを実感しています。
E538タウンボストンミニ E538 タウンボストンミニ
¥43,200(税込)

タンニンなめし革の堅牢さを活かした優美な丸いフォルムで、世代を問わず愛されているロングセラー品です。以前より母娘で一緒に直営店にお越しいただいており、今回はお嬢様への就職祝いに。学生の頃から「いたがきの鞄が欲しい」と仰っていたとのことで、ぜひ永くお使いいただき、ご自分の成長と共に深みを増す革の風合いをお楽しみいただければ幸いです。

今まで使っていたマルチトート(いたがき製)が旧くなり、新しいバックをと思いお店へ伺いました。いろいろ悩んだあげく、全く同じ商品を選びました。色、形、使いやすさ等一時間 店員の方と相談しました。自分にとっても、良いものは飽きがきませんし、年齢を問わず使えるのでなかなか別のバックへ行くことができませんでした。
M520 マルチトートA4 M520 マルチトートA4
¥48,600(税込)

買い替えのタイミングで最終的にまた同じものを選ばれたとのことで、「良いものは飽きがきません」という大変嬉しいお言葉、ありがとうございます。こちらの鞄は中仕切りやポケットが豊富で、A4書類も入るのでビジネス・プライベート問わず活躍する鞄です。直営店では販売スタッフがいつでも商品のご相談をお受けいたしますので、ぜひお気軽にお声がけください。

どちらのエピソードも大変ありがたく、スタッフ一同感激してお葉書を拝見いたしました。今後とも製品に関するご感想、ご要望などぜひお寄せくださいませ。

使うプロからの声は、いたがきホームページでも毎月掲載しております。
ぜひご覧ください。

つくるプロから使うプロの方へ 「革の裁断について」

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いたがきで使用している革はご存じの通り《タンニンなめしの革》で肉厚の牛皮をなめしたものです。大事な命が宿っていた生き物の皮であり、肉厚の皮を確保することは年を追うごとに難しくなっています。また、なめす作業は昔ながらの手間がかかる人力と時間を要する方法のため、とても希少価値の高い素材です。創業当時は創業者(英三会長)自らが 革の裁断を行っていましたので、その心は現場スタッフにも伝承され、不規則な形の革の隅々まで使い切ることをモットーに日々革と向かい合っています。また一つの製品の出来上がりの風合いに一体感を保つために、同じ一枚の革から各パーツを裁断することを心掛けています。ベルトなどの長尺物は伸びの少ない上質なお尻から背中にかけてを使用し、ビジネスバッグのハンドルは柔軟かつ丈夫な首の部分を、耐久性を要求される大きめのパーツはお尻の繊維の密度の高いところを使います。そのパーツに合わせて繊維の方向や革の厚さにも気を付けて作業を進めます。パーツとパーツの間の端切れから細かいパーツをとったり、無駄をなくすために鞄と小物をセットで裁断することもあります。また表革として使えない部分は見えないところの補強や裏当てに使います。

皮は牛が育つ場所によっても特徴があり、季節ごとにも仕上がりに違いがあるので、一枚一枚手で触ってこし感を確認して、製品ごとに革を選別することも欠かせない作業です。一枚の革を無駄なくきれいに使い切った時には大きな満足感を得ることができますが、忍耐のいる地味な作業です。なめし上がった革には生傷やシミなど人間の肌と同じように全てきれいなところばかりではありませんが、製品として出来上がった時にはいかにきれいに仕上るか、裁断作業の力の見せどころでもあります。

「革の裁断について」

直営店情報 〜ようこそいらっしゃいませ!〜

京王プラザホテル新宿店

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この春、京王プラザホテル新宿店は開店5周年を迎え、3月1日(水)からの1ヶ月間、皆様からの日頃のご愛顧に感謝して5周年記念フェアを開催いたします。

開店以来、多くのお客様にご利用、ご来店いただきまして、5周年を迎えることができましたことを心より感謝申し上げます。

鞍ウエストポーチ2way

鞍ウエストポーチ2way

メンズベルト30mm(左)レディースベルト15mm(右)

メンズベルト30mm(左)
レディースベルト15mm(右)

5周年特別企画といたしまして、京王新宿店でとても人気のある鞍シリーズより、これからの季節にお勧めしたいポシェットとウエストポーチの2way仕様の「鞍ウエストポーチ」を復刻制作いたします。

その他限定色として、ネイビーカラーのB283メンズベルト30㎜、B258レディースベルト15㎜も登場します。是非この機会に、お誘い合わせの上お立ち寄りくださいませ。

京王プラザホテル新宿店

京王プラザホテル新宿店
〒160-8330
東京都新宿区西新宿2丁目2番1号
京王プラザホテル 南館ロビー階
TEL・FAX: 03-5325-2663
営業時間: 10:00~19:00(年中無休)

麻布十番店閉店のご挨拶

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平素より多くの皆様にご愛顧をいただき誠にありがとうございます。

この度、平成29年2月28日をもちまして、麻布十番店は閉店の運びとなりました。北海道外初の直営店舗としてオープンより21年、麻布十番ならではの下町らしい雰囲気の中で、自然と北海道に縁のある方が集まる、そんなお店でした。

開店当初の麻布十番店

開店当初の麻布十番店

お祭りやヴァイオリンコンサート、ものづくり講習会、各種フェアなど、直営店舗の中でも特にイベント開催が多く、

たくさんの皆様と一緒に盛り上げて参りました。そういった中、製品を通して皆様と関われましたことをスタッフ一同感謝しております。長年のご愛顧誠にありがとうございました。

今後は同じ東京都内にある新宿の京王プラザホテル新宿店にて業務を引継ぎ、今までと同様に製品のお手入れや修理等を承りますので、ぜひご利用くださいませ。

麻布十番店

麻布十番店
〒106-0045
東京都港区麻布十番2-21-14
TEL・FAX: 03-5439-9895
営業時間: 11:00~19:00(火曜定休)

Topics

オリジナル布袋のご紹介

今年から、下記の商品番号の鞄に保管用のオリジナル布袋をお付けすることになりました。革ロゴマークを中央に縫い付けており、鞄にあわせたサイズでご用意いたします。

オリジナル布袋

対象商品

E919E920E921E933、E934、
E554E567M507MM507S
T565、B712、B712H、B720、
B765B919、B933

編集後記

今年10月に創業35周年を迎えるにあたり、「赤平市と共に歩んだ35年」と題し、3回シリーズで赤平市といたがきのいろいろな「表情」をご紹介します。初回は、時代を追って赤平市にいたがきが根付くまでの経緯をご紹介しました。

次号では、「ものづくりの町、赤平」を形作っている個性的な企業をご紹介します。どうぞ、お楽しみに。