表情の奥深さに魅了された革との出会い

創業以来、持てる技術を駆使してものづくりをするために、上質な素材を求め続けていますが、創業時は特に上質な素材を手に入れることがそう簡単ではなく、創業者がこだわった厚くてしっかりとタンニンでなめされた革は、すでに稀少価値的な存在となっていました。電話一本入るとどんなに遠くても一目散に出向き、自分の目で確かめて、なけなしのお金を払って手に入れる、そんなことの繰り返しでした。そんな愚直で貪欲な職人気質に心を動かされた人から人へと導かれて栃木レザー社に巡り合ったのが、創業して数年ほど経った1985年頃。今では栃木レザーの品質の高さに納得する人が多く、日本国内屈指のタンナーとして知られていますが、タンニンなめしの革が国内に広く普及したのは、長い年月と関わった人々の不屈の努力の賜物で、ものづくりを通してその普及に貢献する事ができたのは、いたがきにとっても大きな誇りとなりました。

鞄いたがき創業者・板垣英三前会長と栃木レザー株式会社・山本昌邦前社長

鞄いたがき創業者・板垣英三前会長と栃木レザー株式会社・山本昌邦前社長

その後もより良い素材を調達するための探求は続き、香港、パリ、イタリアの見本市やタンナーへの訪問は、次世代の重要な役割として引き継がれています。(その為、いたがきでは創業間もない頃からネイティブスピ―カ―を講師に招いて英会話のレッスンが行われていて、今でも若いスタッフを中心に英語を学ぶ機会を提供しています。)

 

今までに数えきれないほどの素材展やタンナーを訪問しましたが、これぞと思える革に出会えるかは、神のみぞ知るような巡り合わせで、特に海外との取引はその時々の情勢などに大きく影響を受けます。今年の創業祭で紹介するドイツから買い付けた革は、2016年にミラノの素材展で出会いました。広い会場の中にはこちらの目が回るほど大量の革が展示され、その中から「これぞ」を選び抜くことは至難の業ですが、それでも訪問する回数や、革との経験を積み重ねていくと、いつしか見るべきところに目が向いて、その善し悪しに気づけるようになります。展示されていた革に引き寄せられるように門戸を叩いたドイツのタンナーでしたが、まず挨拶も早々に開口一番突き付けられたのは、「うちの革は日本人向きではないよ」という言葉でした。革にはキズがあるのが当たり前だから、と語るドイツ人といたがきの創業者がまるで重なり合うような、不思議な瞬間でした。創業者も「生き物だった革にはキズがあり、見た目に良くないところがあるのは当たり前。それをきちんと売り物に仕立てるのが職人の技だ」とよく口にしていたからです。

ミラノで開催される国際的な素材見本市“リネアペッレ”の会場にて

ミラノで開催される国際的な素材見本市“リネアペッレ”の会場にて

10月の創業祭では、ぜひこの革で作られた製品を皆様にご覧いただきたいと思います。本当に良い革という問いに答えてくれるような素材で、表面のキズも全て天然の豊かな表情から革の温かさや力強さを感じ取っていただけるはずです。また、使いながら定期的にお手入れを施す事で、磨けば光る玉のように美しい艶を帯びて滑らかに変化し、本物の素材ならではの良さが五感を通して伝わってきます。一枚一枚異なる革の肌目を隠すことなくそのまま生かし、厚いまましっかりとタンニンでなめされた革、いたがきの創業者が求め続けた革ですので、革好きな方にはぜひ触れて感じていただきたいと思います。

革そのものの豊かな表情が味わい深いドイツ革。 創業祭2023限定品にどうぞご期待ください。

革そのものの豊かな表情が味わい深いドイツ革。 創業祭2023限定品にどうぞご期待ください。

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