いたがき通信 Vol.47 2023年冬号

活きる、動く。~新たな素材とデザイン、マーレイトート新登場~

あきらめず追い求め続けてきたからこそ、ふとしたきっかけで出会うことのできた素材があります。ベルギーのMasure社ルガトー・ブラスコット革と、ポルトガルのJoaquimFrancisco社のソフトタンニン革という、全く違う魅力を持ち合わせた2つの革。この2つのヨーロピアンレザーを贅沢に使い、いたがきの新作マーレイトートが完成しました。

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「らしさ」と「あたらしさ」
素材とデザインを追求した
マーレイトートが新登場

 今回の主役は、タンニンなめしの“ハードな革”ではなく、タンニンでなめされた“ソフトな革”。いたがきでも女性に人気の高いソフト革、「ボルドー色の良い革があれば」と探しながらも出会えていませんでした。なかなか巡り合えないまま月日が流れ、その瞬間は不意に訪れることに。2020年2月に訪問したミラノ開催の革の素材展。幾つもの出展ブースを巡る中、ポルトガルタンナーのブースで目にしたその革はタンニンでなめされたということを疑ってしまうほど、しっとりとした柔らかさとこしを持ち合わせ、その質感は想像以上。厚いタンニンなめしの硬さに慣れていると、ソフトの革は少なからず物足りなく感じてしまいがちですが、このポルトガルのソフト革はしっとりとした仕上がり感が上品さと質の高さを物語っていて、その瞬間からこの革を活かした鞄を作るチャレンジが始まったのです。

 JoaquimFrancisco社のあるポルトガルのAlcanenaは、その町自体に十数社のタンナーが点在し、革のなめしにおいて歴史ある地域。この地で1933年の創業から90年、時代は流れても大切なことは変えずに品質を保ち守り続けてきました。その信念はどこかいたがきと相通じるものを感じます。過去には、同社から手染め風に仕上げた茶色い革で財布やステーショナリーなどの小物を限定制作したことも。成長途中の子牛の小さめの革を使った小物アイテムは4年ほど経過した今、経年変化が程よく表情に出ていてなめしの良さがよくわかる質の高い素材だということを実感できます。

 改良に改良を重ねようやく完成へと辿り着いたポルトガルソフト革で作るマーレイトート。革の見本が手元に来て開発を始めてから、コロナ禍も含めると約4年もの歳月をかけて完成させました。ハードな革とソフトな革、お互いの良さを引き出し合うような組み立ては挑戦でもありました。ハード革は骨格となりいたがきらしい作りを感じるように、ソフト革はボディ全面に使用しその素材感が伝わるように。自然な丸みを出すためボディを切り替えることで、ハードな革がソフトの革を守ってくれるような構造になっています。異なる素材を組み合わせることで型崩れが起こらないように、中の仕切りには贅沢にハードの革を使い、繋ぎ部分の角度や寸法など要所要所に小さな工夫を施しました。

 今回はさらに、ディレクターである板垣江美がモニターとなり、実際に使用する中で気づいた些細なことも反映させながらポケットや口前のラインに至るまで細やかな調整や、制作途中でもデザインの大幅な修正を実行するなど、時間や手間を惜しますに開発に取り組みました。新しい素材で新しいデザインを。革の質感を伝えることができるデザインと作りを目指して、デザイナーと職人の双方のチームワークであたらしさといたがきらしさを求めて、仕上がりの雰囲気、構造、細部の工夫に至るまで妥協せずにとことんこだわった新作です。

 ソフトの革ならではの優しさと品の良さ、エレガントな印象を持ちつつ、使い勝手を考えた工夫を随所に盛り込んだマーレイトート。仕事やお出かけに持ち歩きたい、財布、手帳、メガネ、化粧ポーチもスッキリ収まるサイズ感が特徴です。中仕切りや大小のポケットなど整理整頓もしやすく、底にはハードの革を使用しているので鞄の中で物が動きにくく、鞄を開けた時に探すストレスを軽減。シーンや年齢を選ばず、上品さもありながら、気負わずに自然体で愛用したい鞄へと仕上がりました。

 

 

 素材にも製作にも職人仕事が集結した新作マーレイトート、この冬「あなたらしく、自分らしく」を演出してくれるアイテムです。

 

素材を買い付けに
自分たちでヨーロッパへ

 いたがきでは創業以来、日本有数の老舗タンナー「栃木レザー社」のタンニンなめし革を使い続けています。そして、素材である革の仕入れのルートはもう一つ。直接ヨーロッパへ行き、自ら見て、触れて、製造者の話を聞き、細かい交渉をしながら、納得のいく革・素材を調達しています。

 今年2月と9月には、イタリア・ミラノで年2回開催される世界最大級の革の見本市「リニアペレ」へ。コロナ禍の収束による移動緩和後は毎回足を運び、世界中のタンナーや革関連の会社が集結する中、各ブースを見てまわっています。5月には、10日間かけてヨーロッパのタンナー3社を訪問。今や人気シリーズとなっているルガトー革・ブラスコット革をなめしているベルギー唯一の老舗タンナー「Masure社」をはじめ、ポルトガルの老舗「JoaquimFrancisco社」やドイツ「Sohre&Leder社」を訪問してきました。Masure社との出会いは25年前、偶然の縁が重なり同社を訪れたのがきっかけ。また、ポルトガルのソフトタンニン革や、魅力的なドイツ革との出会いは、数年前の「リニアペレ」会場が最初でした。今回、初めて訪れたポルトガルの老舗タンナーの工場は、歴史を感じる外観ながら工場内はきれいに整理整頓され、職人たちが丁寧に作業を進めている姿が印象的で、仕上げの良さ、革の質感の高さにも納得する光景でした。

 日本で待っているだけでは訪れない、世界に数多くある様々な革や製造法との出会い。自分たちで直接、現地へ買い付けに向かい、素材を手に入れることは決して容易なことではなく時間も掛かります。しかし、自ら足を運び言葉を交わしながら信頼関係を築き上げていくことで、「心が動く」素材に出会える一瞬がある。その一瞬の出会いから、長く愛用してほしいいたがき製品の数々が生まれています。

 

修理の現場から
「愛着そのままに よみがえる鞍ショルダー」

3回に分け、いたがきの修理をご紹介 最終回

 いたがきを代表する鞄、鞍ショルダー。日常的に愛用するアイテムだからこそ、内装(過去に使用していた合成皮革)の劣化やあぶみ根革のちぎれ、ショルダー根革の劣化などで修理依頼も多い製品です。修理の現場から、今回は鞍ショルダーの修理工程や内容についてご紹介します。

 

1. 糸をほどき解体、内装を貼り替える

丁寧に糸をほどきながら解体し、内装の合成皮革を剥がします。床面ののりを慎重に除去し、薄くすいた革(厚さ0.5mm)を貼り、変形していたら補正していきます。

 

2. 針穴に沿ってミシン縫い、擦れた部分には色入れを

組み立てて、解体前の針穴に合わせながら革を傷つけないよう丁寧にミシンで縫い直していきます。塗装が剥がれているコバ(革の縁)の色入れや、銀面(革の表面)の擦れた部分の色入れを行います。

 

3. 仕上げのお手入れ、あんこを入れて完成

最後に全体をきれいにお手入れ。小さなパーツ、負担のかかるパーツは念入りに行います。愛着はそのままに再び美しさを取り戻した鞍ショルダー、形を整えるあんこ(詰め物)を入れて完成です。

 長くお使いいただけるためのポイントは定期的なお手入れ。鞍ショルダーはパーツが多く立体的なので、部分によっては指で保護クリームを擦り込んでから磨くと、細かい部分でもしっかり自分でお手入れすることができます。3年~5年に1度の「有償メンテナンス」もぜひご利用ください。

 

Topics 干支コインケース

2024年の干支「辰コインケース」製作中

毎年好評の、若手職人が手がける干支コインケース。第5弾となる2024年の“辰”バージョンが完成しました。タンニンなめしの革の厚みを活かし、龍の顔を立体的に表現することにこだわりました。小銭の取り出し部分は龍の口さながらにファスナーで開閉します。髭に見立てたファスナーつまみと、今回のために専用で仕入れた“角”の金具もポイントです。また愛嬌のある顔つきは、社内デザインチームとも協議を重ねて最後まで調整した部分。直営店・オンラインショップにて受注承り中です。(数量限定・お届けは2024年1月)

進化を続ける干支コインケースを、ぜひ今年もお見逃しなく。

 

直営店紹介 ~ようこそ、いらっしゃいませ!~

職人のクラフトマンシップが息づく、
モノづくりの地 赤平本店

 戦後15歳で鞄づくりの道を歩み始めた板垣英三が運命に導かれるように47歳で創業した鞄いたがき。本店を構える赤平市は、富良野に程近く、自然豊かな中空知に位置し、旅行の道中に立ち寄られる方も多くいらっしゃいます。本社屋には、本店ショールームと淹れたてコーヒーをお楽しみいただけるCaféの他、職人がものづくりに励む姿を見ることが出来る工房も併設されています。

 赤平本店は、秋冬もイベントが目白押し!『お楽しみ会(11月23日~26日)』では、工房にて革製クリスマスリース作りなどのものづくりをお楽しみいただけます。贈り物シーズンの12月は『クリスマスフェア』、年の初めには「初売り」と同時開催の『春財布フェア』、1月末の『小さな冬まつり』では、冬の北海道を象徴する雪像が登場します。四季折々、イベント盛り沢山の赤平本店。スタッフ一同、皆様のご来店をお待ち申し上げます。

北海道の空の玄関口「新千歳空港」。
新千歳空港クラフトスタジオ店

 コロナ禍が収束し息を吹き返した空港は、待ちに待った北海道旅行に訪れるお客様のご利用で賑やかさが絶えません。これからの季節はクリスマス、年末年始とイベントが続き、非日常を味わうお客様で空港内はますます華やかさが増していきます。ご旅行のお土産やクリスマスのギフトとしてクラフトスタジオ店の人気鞄BEST3をご紹介します。ぜひ、ご参考になさってください。

No.1  E930 鞍ウエストポーチ2way
大きく口が開き、長財布とスマホが収まるすっきりとしたデザイン。2way仕様の人気商品です。
No.1 E930 鞍ウエストポーチ2way
大きく口が開き、長財布とスマホが収まるすっきりとしたデザイン。2way仕様の人気商品です。
No.2  E915 鞍ショルダー小
いたがきのトラディショナルを継承するデザインで、シルエットの美しさが人気です。
No.2 E915 鞍ショルダー小
いたがきのトラディショナルを継承するデザインで、シルエットの美しさが人気です。
No.3  M526 マルチトートミニ
一目見て「使いやすそう!」と感じるソフトレザーが人気の日常使いトート。
No.3 M526 マルチトートミニ
一目見て「使いやすそう!」と感じるソフトレザーが人気の日常使いトート。

 クラフトスタジオ店限定刻印、北海道マークも大人気です。旅の記念に北海道を持ち帰りませんか?ご購入されたいたがき製品に北海道のマークを刻印いたしますので、お気軽にスタッフまでお声掛けください。皆様のご来店をスタッフ一同心よりお待ちしております。

編集後記

「活きる、動く」のテーマ、ラストはいたがき自らが動くことで出会った新素材で作るマーレイトートを特集しました。AIの進化が目覚ましい時代ですが、人間が理想を追い求めチャレンジし続けることがものづくりの面白さかもしれません。来年のいたがき通信もどうぞお楽しみに。