いたがき通信 Vol.42 2022年春号

めぐる、つなぐ。~創業者の魂、40周年に感謝して~

1982年に北海道赤平市で産声をあげたいたがきは、今年創業40周年を迎えます。誕生の歴史をめぐり、職人技をつなぐ。創業者 板垣英三が師匠から教わり受け継いだ「ものづくりの芯」がいたがきの根底にあり、始まりでもあり集大成とも言える、代表作の鞍ショルダーは、創業者と苦楽を共に歩み、今では創業者を象徴する存在となるに至った過程をご紹介します。

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めぐる、つなぐ

創業者の魂、40周年に感謝して

いたがき誕生の歴史をめぐり、職人技をつなぐ。ものづくりに込めた想いをめぐり、職人魂をつなぐ。

すべての出会いに感謝があふれる2022年、いたがきは創業40周年の節目を迎えます。

これまでも、これからも、守っていきたいもの。それは創業者が新人時代に師匠から教わり受け継いだ「ものづくりの芯」でした。

ものづくりの一歩目

 家族が何より大事で大好きな、甘えん坊の三兄弟の末っ子。「丁稚奉公に入ってしばらくは、親方に口をきいてもらえなくて辛かったそうです。」15歳で鞄職人に弟子入りした創業者・板垣英三の修業時代を語るのは社長・板垣江美。
 朝早くから夜遅くまで一生懸命働き、疲れ果てて寝るという毎日。師匠である親方は、口数少なにも厳しさを伝える生粋の職人だった。ある日突然、英三は親方から言葉よりも先に革切り包丁を渡される。もらえるのかと思い兄弟子たちに聞いてみると、それは「包丁を研げ」という意味だった。「その日から毎日、包丁を研ぐことが日課になったそうです。まずは砥石を平らにすることを兄弟子から教わり、毎日精を出していたら切れ味が良くなって。親方だけでなく兄弟子たちからも毎日何本もの包丁を置かれるようになったそうです」。
 そんな英三の真摯な仕事への姿勢が見込まれ、三越の展覧会に出品をする作品の下仕事役に大抜擢。親方との最初の仕事だった。ところが仕事中に居眠りをしてしまい、完成間近の作品にインクを垂らし、台無しに。出品はできなくなり、当然叱られるとばかりに覚悟し猛反省の英三。しかし、親方は叱るどころか「また次の機会があるから」と声を掛けてくれたという。

鞄職人の父

上段中央が創業者 板垣英三

上段中央が創業者 板垣英三

 「私が子どもの頃、父が仕事で課題にぶつかったりすると気分転換なのか必ずふらっと外に出かける。私もよくドライブに連れて行ってもらいました。何を話すわけではないけれど、今でいうコンビニ、昔の駄菓子屋さんみたいなお店で、袋いっぱいにパンや甘いものを買って、好きなだけ食べて、父と2人で楽しい時間を過ごしました」。仕事でも遊びでも何にでも一生懸命。お祭りで買ってきたヒヨコを本当に大きくなるまで大事に育てて、子供の私たちの方が夢中にさせられてしまったことも。その性格はものづくりにもあらわれ、無理難題と思えることにいつでも前向きに挑戦していた。「一度始めた見本づくりが波に乗ると、寝食を忘れ作業に没頭して、途中で『糸目や手が変わるのは嫌なんだ』と最後まで休まずに手を動かし続けていました」。

人生の集大成、鞍ショルダー

 「代表作の鞍ショルダーは、いたがきの始まりであり、集大成でもあります」。創業者と共に歩んだかけがえのない相棒とも言える鞍ショルダー。馬具である鞍のデザインをいかに美しく表現するか、開発には自身の技術を掘り起こすために心身ともにもがいていたという。「固いタンニンなめしの革で曲線を描くことは相当な苦労があり、『もうダメかな』と諦めかけた時にふっとアイデアが湧いたんだと言っていました。馬が生育する北海道、タンニンなめし革の象徴、原点にあるものづくりの技術、それらが最大限に発揮し合えたことで、The Hokkaidoとも言える鞍ショルダーが生まれ得たのだと思います」。

15歳の少年が鞄職人の門を叩いたのは、今から70年以上も前のこと。いたがきのものづくりは、その瞬間から始まりました。2022年、今年の春もまた全国で何十万人という新社会人が、それぞれの新たな人生の門をひらきます。
雄大な大地に、馬が駆け出すが如く。駆け出しと呼ばれる新人時代に、大切に感じてほしい「一つの何かを続ける」ということ。いろいろな仕事、選択、可能性がある今の時代だからこそ、巡り会えた一つのことに生涯を通して身を投じることは貴重なのかもしれません。手間のかかる仕事を嫌わずにずっと続けていく生真面目さ。これからも大切に守っていきたい、いたがきの基盤です。

 

一番弟子との絆

タンニンなめしの革の財布づくり

札幌市にある羽原コレクション。板垣英三が自他ともに認める一番弟子、羽原吉正さんが創業した革製品工房です。
事故で足に障がいを持った羽原さんが、手仕事の技術を身につけたいと、いたがきが革についてのアドバイザー役を委託されていた、革製品のクリーニング会社に入社してきたのが最初の出会いでした。板垣英三の下でタンニンなめしの革のものづくりの技術を習得したいと強く希望して、札幌から毎日車で赤平に通うことになった羽原さん。平成4年には、障がい者の自立を目的とした羽原コレクションを設立しました。
繊細できれいなステッチを堅牢なタンニンなめしの革に施す、羽原さんならではの仕事。ひと手間もふた手間もかかる他の人なら避けて通るような大変なつくりでも、難しいとは言わず完璧に仕上げる。見せないけれど隠された努力や根性があってこそ為せる職人技です。
そんな羽原さんの手に掛からなければ誕生しなかったであろう製品が、160番の愛称で知られる「ドル入れ付札入れ」。若かりし頃の江美社長の発案を、型おこしからサンプリングまで羽原さんが担った代表作とも言える、30年以上続くロングセラーです。長く愛用される方が多いこのお財布は、使い勝手の良さはもちろん、タンニンなめしの革の風合いとその繊細なステッチにぜひ触れてほしい逸品です。

創業者 板垣英三 思い出の写真コーナー

本店カフェの一角に、創業者 板垣英三を懐かしんでいただけるように写真コーナーを設置しました。2018年冬に発病するまで生涯現役を貫いていた英三は、本店によく顔を出して、タイミングよく出会えたお客様との会話を心から楽しんでいました。長年思い描いていたカフェで、旭川のコーヒー専門店 昭平堂の美味しいコーヒーを飲みながら、いつも笑顔で話していた姿が思い出されます。当時の英三と撮影された写真をお持ちの方は、プリントした写真やデータを、赤平本社までぜひお送りください。皆様の一枚がコーナーの仲間入りをした際はご一報差し上げます。

つくるプロが認める鞄を使うプロ

革アイテムを楽しむいたがき製品を愛用する「使うプロ」の声をご紹介します。

 8年ほど前、札幌・東急百貨店で開催した職人展。そこで偶然目にしたいたがき製品との出会いから始まり、これまで様々なアイテムをご購入の安齋康平様。トートバッグやボストンバッグの鞄の他にも、ブックカバーやペンケースなど革小物も多くご愛用されています。今回は、「使うプロ」安齋様にご愛用中のM021トートバッグについてお話を伺いました。

 

ー ご購入のきっかけは?

トートバッグを1年くらい探していましたが、なかなか「これ!」というものに巡り合えずにいたところ、いたがきで限定販売されたM021に出会い、自分の要求を叶えてくれるトートバッグだと思い、即決しました。

 

ー 堅いタンニンなめし革とソフトレザーを組み合わせた「ソフトタンニンシリーズ」のM021、お気に入りポイントは?

革が柔らかいので、鞄が身体に寄り添うようにフィットしてくれる。多少形がいびつになっても「もっと物を入れたいな」という時に入るところです。フォーマルな席ではカチッとした肩掛けトート(T758-10)、友人と会う時やカジュアルなシーンにはM021、と使い分けています。

 

ー 鞄や小物など革製品を選ぶ理由は?

お手入れを定期的にすることで、だんだんと革が馴染んで艶が出て、触り心地も良くなり、10年20年と長く使えることを知ったことです。その良さを知るまでは、革ではない雑材やナイロン製の気軽なものを使っていましたが、革の経年変化を実感してどんどん革製品の虜になりました。

 

ー お手入れで気を付けているポイントは?

お店でアドバイスを受けてから、クリームの塗り過ぎには注意してお手入れしています。

 

安齋様ご愛用中の製品は全てとても状態が良く、しっかりお手入れをしていただいていることが一目でわかりました。また、革の端材を最後まで使い切ることと新人の育成を目的にして始まった「LLCリトルレザークラブ」にも高い関心を持っていただき、中でもLLCグッズのベルトポーチはご愛用中とのことで、LLCの活動や今後の製品作りにも期待を寄せてくださいました。インタビューにご協力いただき、ありがとうございました。

直営店紹介 ~ようこそいらっしゃいませ!!~

京王プラザホテル札幌店

京王プラザホテル札幌は、5月16日に開業40周年を迎えます。1982年、まだ高い建物がほとんどなかった札幌の新たなランドマークとして開業、40年の歳月を<人が集う広場=プラザ>として多くの方の思い出を彩ってきました。奇縁にも弊社も今年40周年、道内の基幹店として15周年を迎える札幌店では、昨年ショッピングアーケードの一角にオープンした「いたがきoffice&gallery」で秘蔵品の展示や修理相談会などを行い、いたがきの歴史を発信する場所として活用してきました。今年は”毎月第4土曜日”に経験豊かな職人を招いて、「手縫い実演」や、「モノづくり体験」「即日の修理対応」など作り手と直に触れていただける時間を提供してまいりますので、多くの皆様のお越しを心よりお待ち申し上げます。

職人による「革の説明とお手入れ講習会」のご案内
2月26日(土)は商品開発の堀内健一、3月26日(土)は修理の川崎雅子が担当いたします。4月以降の「office&gallery」でも催し内容は、随時直営店ブログ等でご案内します。

中部国際空港セントレア店

おかげさまで5月に中部国際空港セントレア店は開店4周年を迎えます。4周年記念フェアでは、お客様よりご要望を多くいただきました”貝がらシリーズ”に新たに限定のショルダーバッグが登場します。「T577 貝がらショルダー 60,500円(税込)カラー:キャメル」は、丸みが愛らしいデザインと、長財布が横向きに入る実用性を兼ね備えたショルダーバッグです。また、会期中Rugato革で「B577 貝がらショルダー 74,800円(税込)カラー:ボルドー・モスグリーン」の特別受注も予定しています。その他に数量限定「B110 貝がらドル入れ」、「B190 シンプル札入れ」ボルドー・モスグリーンもご用意。中部国際空港セントレア店4周年フェアにどうぞご期待ください。皆様のお越しをスタッフ一同、心よりお待ち申し上げます。

中部国際空港セントレア店4周年記念フェア 5月14日(土)~5月31日(火)開催予定
※4周年記念フェアの開催に向けて、新しい限定のショルダーバッグは只今、赤平の工房で製作準備中です。どうぞ楽しみにお待ちください。

編集後記

創業40周年を迎える2022年の特集第1弾は、いたがきの原点である創業者のエピソードを振り返りました。今年は「めぐる。つなぐ」がテーマの特集を、焦点を変えながらお届けしてまいります。どうぞお楽しみに。