いたがき通信 Vol.41 2021年冬号

経年変化をたのしむ~倉庫で眠っていたピンクライオンのお話~

創業者 板垣英三が創業間もない頃に手掛けた一つの鞄。日の目を見ないまま長い間倉庫で眠っていたその鞄に、魅了されたスタッフの声に開発チームが動き、「温故知新」の言葉のように、今年のクリスマス新作ショルダーとして復刻するまでに至った物語をご紹介します。

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倉庫で眠っていたピンクライオンのお話

創業したばかりの頃、創業者自らが手掛けた一つの鞄。量産はせず販売が終了し、開発部の倉庫に長い間眠っていた「ピンクライオン」という名のショルダーバッグがあります。偶然か必然か、ある時倉庫に入った若いスタッフの目に留まったのがきっかけで、「2021クリスマス新作ショルダー」として復刻とも言える開発・製造がスタート。

「温故知新」という言葉の通り、創業者・板垣英三が残した一つの鞄が、今のいたがきの職人・スタッフに多くの驚きと発見をもたらしました。

旧友のために一生懸命作った鞄

それはまだ、いたがきが創業して間もない頃の話。創業者の旧友が、銀座プランタンデパートで販売していた「ピンクライオン」という女性向け高級輸入肌着ブランドがありました。板垣英三のものづくりへのこだわりを認めていた旧友は、ブランドPRのための商品製作を依頼。その一つがこのショルダーバッグでした。女性向けの鞄としてデザインを一から起こすことになり、堅牢なタンニンなめしの革を女性に好まれるフェミニンなデザインに仕上げること、いかにソフトに、優しく見せるかを課題に取り組みました。ただ努力を重ねた甲斐はなく、実際には鳴かず飛ばずで、日の目を見ずにお蔵入りすることになってしまいました。タンニンなめしの革の良さは時間の経過とともに革が経年変化してその魅力が増していきます。この鞄は生まれてすぐに世の中に認められる機会がなかった分、時間を経てそのチャンスが巡ってきたのかもしれません。

倉庫に眠っていたピンクライオン

倉庫に眠っていたピンクライオン

驚きの連続
今のいたがきにはない鞄

「いたがきのタンニンなめしの鞄はシンプルなものが多く、それがいたがきの良さですが過去にこんな作り込んだデザインがあったんだと衝撃を受けました。心を惹かれたのは、経年変化が生んだその何とも言えない趣と風合い。当時は多かったスクエア調のサイズも、今ではめずらしく新鮮で使い勝手も良さそう。幅広い世代の方におすすめしたい」そう語るのは、鞄を倉庫から見つけた販売スタッフの岩淵。

「万人にはウケないクセのある鞄。だからこそその良さを広く伝えたい」。開発とデザインチームが一体となり、過去に生まれたピンクライオンの全体像を基調に、バランスを少しづつ整えながらスケッチ。この鞄が持つクラシックさを守りながらリメイクするために、作りの構造を再考して微調整を重ね、オリジナルの雰囲気を保つことに注力しました。

驚きの発見の声は開発部・橋本からも。「いつもは鞄がふっくらと仕上がるようにできるだけ直線は避けて、ラインにほんの少し丸みを出しています。でも、このショルダーのデザインに当てはめるとせっかくのスクエア調のシャープさが損なわれてしまう。そこで、思い切って丸くせずにまっすぐなラインに。断然、良さが引き立つきれいな仕上がりに驚きました」

今のいたがきにはないデザインと製法が施されたピンクライオンという名の鞄。若い世代のスタッフ達が復刻を願い、そのステッチワークや革の質感を全面的に押し出したレトロ感漂うクラシックなアイテムとしてこの冬、新作ショルダーバッグが完成しました。それを手に取りながら社長・板垣江美は語ります。「創業者が当時、一生懸命作った鞄が色々な人の声と手によって復刻して嬉しい。作ってみることで昔の作りに触れて、違いを知る。簡単な作業ではありませんが、昔と今の職人がまるで共同開発したような、変わらないものづくりへの思いと技術が詰まった鞄です」

故きを温ねて新しきを知る、時代が変わっても伝わる良さ。その根底には妥協のない職人の想いが息づいています。

つくるプロが認める鞄を使うプロ。

革アイテムを楽しむいたがき製品を愛用する「使うプロ」の声をご紹介します。

ひとめぼれしたマリーバッグ

愛知県にお住まいで、6年ほど前からいたがき製品をご家族でご愛用いただいている田中由子様。縦型ショルダーや巾着トート、あぶみリュックなど普段からお使いのいたがき製品の他に、特別な機会にお使いになるという、2020年クリスマス限定発売のマリーバッグ。今回は「使うプロ」田中様に、ひときわお気に入りのマリーバッグについてお話を伺いました。

 

ー ご購入のきっかけは?

「クリスマスダイジェストが届いてすぐ、セントレア店へ。新作のマリーバッグを見て一目で気に入りました。まさに一目惚れした鞄です」

 

ー お気に入りポイントは?

「デザインはもちろん、大きすぎないサイズ感。開きやすくて取り出しやすいので安心感があります。いろいろ収納すると形もふっくらするので、外ポケットに薄めのカードやパスケースを入れても落ちる心配はありません」

 

ー 使うのはどんな時?

「お出掛けや少し特別な機会に。ハンドバッグとしても使いますが、ショルダーストラップはあると便利で頻繁に利用しています」

 

ー お使いの中で嬉しかったことは?

「マリーバッグを見た友人が、革を撫でながら『いい鞄ね、やっぱり』と褒めてくれました」

 

 

雨の日は持たないようにしたり、使った後にはさっとお手入れをするなど、革の状態を気に掛けて大切に鞄をご愛用いただいている田中様。マリーバッグの革の状態もとてもよくお召しの若草色のワンピースに、とてもお似合いでした。ありがとうございました。

カフェの窓から季節が香る

まるで、自然が生み出す一枚の絵。カフェのテラスからは、夏には青く茂っていた葉がおとなしく薄くなり、日一日と黄色やオレンジ、赤に染まりゆく美しい紅葉がお楽しみいただけます。

クリスマスツリーやイルミネーションなど、店内にも徐々に秋冬仕様へと変化するカフェに漂うのは、昭平堂コーヒーの香り。旭川にある昭平堂の工房では、長年吟味して仕入れた極上のコーヒー豆をフルシティローストと呼ばれる製法でじっくり焙煎。焼き立ての新鮮なコーヒー豆が、そのまま赤平に直送されています。

カフェでは、いたがきスタッフが一杯づつ丁寧にハンドドリップでコーヒーをお淹れしています。大切なのは、お湯の温度と蒸らし時間。沸騰してから少し置いた94℃くらいのお湯を注いで、コーヒーが膨らんできたところを待つこと15秒から30秒。中央に円を描くように細く、静かにお湯を足していきます。

いたがき鞄のように、時間の流れや季節の移ろいを楽しんでいただきたい赤平本店のいたがきカフェ。タンニンなめしの革が敷かれた椅子に座り、至福の一杯を味わうひととき。一人の時間にも、大切な方との時間にも、ぜひご利用ください。

2022年の干支「寅ドル入れ」製作中

入社3年ほどの若手スタッフが集まる研修班では、ただいま新商品を開発中!現在取り組んでいるのは、2020年の鼠、2021年の丑に続く来年2022年の干支をモチーフにした「寅ドル入れ」です。デザインから開発までの全工程を担う、研修班の取り組みの一つ。ものづくりのいろはや基本的な技術を、工程数の少ないアイテムで数をこなして実戦経験を積みながら身につけていきます。「あえて、いたがきらしくない新鮮な部分を表現。かわいいだけでないトラの威厳やリアル感、機能性にもこだわりたい」と縫製部・佐藤は、昨年の「丑(うし)ドル入れ」の経験を活かしながら新たな開発に挑んでいます。ベテラン職人のアドバイスに耳を傾けながら研修班ならではのアイデアが詰まった新商品・寅ドル入れは、完成までもう少し。ぜひご期待ください。

空港店オリジナル限定アイテムのご紹介

「空港店からお届けします!」

二つの空港店は長引くコロナ渦の中で情勢に影響されるところが大きく、止む無く休業せざるを得ない苦しい時間を経験しました。そんな中でただ塞ぎ込んでばかりはいられないと、これまで空港をご利用されるお客様から収集してきた意見をもとに、空港限定アイテムの試作に着手いたしました。最近はスマートフォンやタブレットなどの充電器やコード、ワイヤレスイヤホンのような小さな備品を携帯して移動される方が多くいらっしゃいます。そんな小さな必需品たちを整理して収まり良くひとまとめにできるポーチが出来上がりました。空港店2店舗で見本品をお披露目しています。興味のある方はぜひお立ち寄りいただき、お手に取ってご覧ください。

直営店紹介 ~ようこそいらっしゃいませ!!~

新千歳空港クラフトスタジオ店

新千歳空港ターミナルビル2階スウィーツアベニューの奥にあるクラフトスタジオは、道産クラフト品を扱うセレクトショップです。ご当地キャラクターやラベンダーグッズ、アイヌゆかりの工芸品までMade in Hokkaidoを多数取り揃えています。その一角に鞄いたがきのコーナーがあります。空港を利用されてご愛用品のお手入れに立ち寄ってくださる方々から様々なお話をお伺いすることを楽しみにしています。クラフトスタジオ店の限定として北海道の思い出に"北海道"の形の刻印を用意しています。訪れた記念に刻印をお勧めしています。

クラフトスタジオ店オリジナルの北海道版

クラフトスタジオ店オリジナルの北海道版

中部国際空港セントレア店

中部国際空港ターミナルビル4階 レンガ通りの一角に、6店舗目の直営店を開店して早3年になります。日本を代表する製造業の拠点ともいえる中部地区にある国際空港でのチャレンジ出店でしたが、いたがきの製品を長くご愛用していただいている既存のお客様も多く、また空港を利用される全国の地方都市からのビジネスのお客様との嬉しい出会いにも恵まれています。セントレア店では折り鶴の形のオリジナル版を用意しています。旅の思い出にいかがでしょうか。

セントレア店オリジナルの折り鶴版

セントレア店オリジナルの折り鶴版

編集後記

昭和に生まれた鞄が、令和に復刻。今回の特集では、経年変化のテーマのもと時代の巡りを感じるお話をお届けしました。次号の特集もどうぞお楽しみに。