北室かず子さん著の『北の鞄ものがたり〜いたがきの職人魂』から、職人たちの時代やいたがきの製作秘話を抜粋して、毎日少しずつお届けします。

※鞄いたがき公式HP「北の鞄ものがたり」特設ページ

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「鞍ショルダーに宿る5つのITAGAKI」

その2:ステッチワーク・捻引き

鞍ショルダーを目にしたとき、不思議と鞄全体がほのかな光の曲線で包まれているように感じられる。その理由を英三に聞くと、「いい鞄にしたいという心と、どうしたらいいのかと考える頭を、手が結んだんです」といたずらっ子のように笑う。

「手」というのは技術。丁寧に磨いたコバ(縁)に沿ったステッチワークが自然と視線を引き寄せるような質感やメリハリを生んでいる。そのベースとなるのは作業前のパーツに入れる焼き溝、「捻引き」。ものづくりの現場で、手を使って「念には念を入れる」ことも意味する作業だ。金属の二枚羽に熱を通し、実際に縫う捻と飾り捻(縫い線を引き立てる)を引くと、このレールのような捻に丈夫なナイロン糸の縫い目が埋め込まれ、擦り切れにくくなる。さらに結び目を熱で溶かして固め、木槌で埋め込むと、しっかりと止まり目立たない。

職人気質とは、ここまで手間をかける。細やかさが違う。

―続く―