北室かず子さん著の『北の鞄ものがたり〜いたがきの職人魂』から、職人たちの時代やいたがきの製作秘話を抜粋して、毎日少しずつお届けします。

※鞄いたがき公式HP「北の鞄ものがたり」特設ページ

https://www.itagaki.co.jp/syoseki/

「鞍ショルダーに宿る5つのITAGAKI」

その1:タンニンなめしの革

いたがき製品の特長のひとつが、アカシア属のミモザのタンニン(渋)でなめした上質な牛革。手にした触感が心地よく、触れるとなぜか手放せなくなってしまう。

その製法は、「ピット製法」と呼ばれる国内でも希少な技術。インスタントが当たり前の時代に、驚くほどの時間と手間をかけている。

革職人にとって、これほど憧れの素材はないが、その一方で技術がなくては手が出せない。

なめしたての時は反抗期の若者のように頑固で扱いにくい。だが、熱を加えて行う捻引き(ねんびき)や研磨、丈夫なナイロン糸での縫製、丹精を込めた手仕事すべてを吸収して、美しいフォルムに変える強靭さを持つ。

そして持ち主と時間を共有するうちに、エイジングによって優しい手触りや独特の艶や色合いを深め、世界でたった一つの存在になる。

―続く―