北室かず子さん著の『北の鞄ものがたり〜いたがきの職人魂』から、職人たちの時代やいたがきの製作秘話を抜粋して、毎日少しずつお届けします。

※鞄いたがき公式HP「北の鞄ものがたり」特設ページ

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■鬼気迫る職人の仕事②

師匠がハラコのバッグを納めた話も語ってくれた。

「ハラコっていうのは母牛の胎内にいる子牛の革で、一度も外気に触れていなければ日光にも当たっていない。これは偶然にしか手に入らないものです。それが師匠のところに届いたことがありました。本当にきれいだった。なんともいえない色が美しく、吸い付くように柔らかい。師匠はそれをハンドバッグに仕立てました。留め金は中心に5カラットほどのダイヤ、その周りをダイヤが六つ囲むように埋め込まれていました。それを桐の箱に入れて、金粉で寿の文字を書いて、袱紗に包んで納めました。それは何に使われるものだったと思います?半玉さんが一人前になるときのお祝いです。吉原に行って、師匠から言われた通りの口上を述べるんです。『本日はお日柄も良く』とかなんとか。すると向こうが『ありがたく頂戴します』とか言って、お返しにお菓子をくれました」

師匠や兄弟子たちの狂気と紙一重の情熱、技への傾倒が、鞄に魂を宿らせるのかもしれない。「料理人と同じでね。いい素材に会うと、身震いするような、自分が試されている気になる」と英三は言う。

―続く―