いたがきに関する話題をお届けしている年3回発行の「いたがき通信」
今回の特集は
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いたがき製品の革には、春号でもご紹介した栃木県の「栃木レザー」でなめされた革と、ベルギーの「マズアー社」でなめされた革の2種類があります。マズアー社製の革は、ベルギー革、ルガトー革、ブラスコットの3種類を使用しています。どの革も、職人の皆さんが技術と時間と手間をかけて仕上げた、堅牢で型くずれしにくく、使えば使うほど味が出るタンニンなめしの革です。
ヨーロッパの革は、 牛をあまり大きく育てずに、柵の中で1頭1頭を管理して飼育しているためキズが少なく均一で、しなやかできめが細かいのが特徴です。マズアー社は、1873 年創業。世界の名だたるトップブランドから、オリジナル革の生産を任されている、タンニンなめし界の権威です。140年以上の歴史に裏付けされた専門技術と、常に新しいトレンドを受け入れる姿勢で、ヨーロッパだけではなく北米や東アジアへ輸出しグローバルな発展を続けています。
4年前に海外研修として、いたがきから2名のスタッフが訪問し見学させていただいたことがあります。広大な工場には51のタンニン槽があり、これは会社の宝だと仰っていました。
工場内はどこを歩いてもクリーンで、なめし工場特有の臭いも気にならないほど、しっかりと設備が整っています。若い職人が黙々と作業に打ち込み、一枚一枚の革を丁寧に扱っている姿が印象的でした。
いたがきがマズアー社と出会ったのは、1999年のこと。弊社社長の板垣江美はドイツ在住で、いたがき製品のパーツづくりや、新製品の試作をするための小さな工房を構えていました。ヨーロッパ産の革もいたがき製品に加えたいと考え探していたところ、ある日工房を訪ねてきた一人の老人との出会いから、人から人への不思議な縁に導かれてマズアー社へたどり着き、そこでルガトー革に出会いました。ルガトー革を一目見た瞬間、板垣江美は「この革で鞄を作りたい」という思いに駆り立てられたそうです。
革の本場ヨーロッパでは見本市が数々開催されますが、中でもイタリアで春と秋の年に2回開かれるリニアペッレと言う素材展は、世界中のタンナー、革関連の会社が集結する世界最大規模の見本市です。
弊社社長がヨーロッパ在住という利点を活かし、ヨーロッパの質のよい革を入手す ることができていますが、このリニアペッレにも、革のトレンドや世界の皮革業界の動向を掴むため、毎年訪れています。
今年の春は2月25日から3日間開催され、弊社社長と一緒に、革の管理を担当しているベテランスタッフと、このいたがき通信の編集に携わっている若手スタッフが同行しました。今回は、世界41 ヵ国から1,086社がそれぞれ趣向を凝らしたブースを出展しており、来場者は2万人を超えたそうです。
革だけではなく布地や金具、同時開催で機械展も開催されており、鞄作りに関連するほぼ全てが揃っていると言っても過言ではありません。いたがき製品で内装に使用している再生革「WINTAN」もここで見つけた素材です。また、弊社の裁断部門で使用している、大型の裁断機や、たくさんの抜き型を整理整頓できる収納棚、縫製部門で使用している身体に害のない接着剤など、この素材展で収集できるヨーロッパならではのイノベイティブな情報は、赤平でものづくりに従事する作り手の作業環境の改善や作業効率の向上にも大いに役立っています。
いたがきではこれからも、お客様によりよい製品をお届けするため、国内外問わず素材の開拓に取り組んでまいります。
馬蹄ドル入れ
¥11,880 (税込)
いたがきの代表作・鞍シリーズのあぶみ金具をあしらった小物は、老若男女問わず人気の品でプレゼントとしても喜ばれています。馬蹄とあぶみのエレガントなデザインの「馬蹄ドル入れ」も人気商品の1つです。馬蹄はヨーロッパでは魔除けの縁起物として知られています。
また、「頭の良い馬は、走行中の車にはぶつからない」ということから、馬のモチーフは交通安全のお守りとしても重宝されています。「鞍キーケース」は一見大きめに見えますが、実は裏側にカード入れがついていて駐車券や免許証などを入れるのにぴったりです。京王プラザホテル札幌店では、開店当初から店舗の鍵を付けて使っており、毎日活躍してくれています。
販売部 小坂 真美子(入社5年目)
鞍シリーズは、そのデザインの美しさを損なわぬよう、パーツのバランスには特に気をつけています。「馬蹄ドル入れ」も複雑なデザインで、バランスが崩れると構造自体にも歪みが出てしまいます。かぶせだけでなく、マチ部分も最後に型出しをするなど、細部まで手をかけています。
型崩れしないのは堅牢なタンニンなめし革だからこそ。特に毎日使う小物には革も上質で強い部位を選んでいます。中でも「あぶみキーホルダー」は厚い革を貼り合わせた頑丈な作りで、ミシンの針が曲がってしまう程ですが、それだけ丈夫で耐久性のある逸品です。
これからも手間を惜しまぬものづくりを続けて参りますので、ぜひ末永くお使いいただければと思います。
製造部 寺田 あかね(入社13年目)
素材探求は作り手にとって大きな課題ですが、内装地は見えない所だけに、見栄えだけでなく耐久性や作業性などを考慮して選定しています。
スイスメイドの再生革《WINTAN》をいたがきで使い始めて10 年以上の時が経ちます。WINTANとは、靴作りの端材の革を粉砕して再びシート状に固めた素材です。昔は重くて柔軟性がなく、内装地としての使用は困難でしたが、現在では品質も安定していて、堅牢なタンニンなめし革製品の内装地としては軽さも強度も程良く、内助の功を発揮してくれています。
裂けに弱いところが欠点なので、内装のポケットなどは裂けにくいように加工して弱さを補っています。小銭入れ等では、修理で戻ってくるものを見ると、ポケットに入れて汗で濡れた形跡があると内装地も劣化していることが分かっています。WINTAN の貼り替えを行い元の状態に修復することも可能ですので、お使いの品で気になる点がありましたら、ぜひご相談ください。
修理前25年以上前に通販雑誌で購入され、以来お出かけ用としてご使用されていたそう。1、2年前から内装地がポロポロと剥がれるようになり、京王プラザホテル新宿店にて修理をご依頼されました。
ショルダー取付部交換の場合は¥7,020(税込)
アブミ部分革交換の場合は¥7,020(税込)
メンテナンスのみの場合は¥4,320(税込)
丁寧に糸を解きながら解体します。
ひび割れた内装地を剥がし、革に張り替えました。ポケットも同様に革で作り直します。
解体前の針穴に沿って、丁寧に縫い合わせていきます。
革塗装が剥がれていた革の縁(コバ)を磨き直し、再度表面材を塗っていきます。
ミシンでは縫えない肝心なハンドル部分を、最後に手縫いで仕上げます。
秋も深まり、京都の街も一段と美しい季節になりました。これから冬にかけて文化財や寺院、庭園などの特別拝観が始まります。特に今年は「琳派誕生400年記念」をテーマに、それにまつわる芸術品や国宝の展覧会も数多く行われています。長い歴史に秘められた京の美を訪ねて、ぜひ京都へお越しください。
いたがき京都御池店では、毎月「ものづくり教室」を開催しております。タンニンなめし革を使ってものづくりの楽しさを体験していただける教室です。スタッフが丁寧にお教えしますので、お一人様からでもお気軽にご参加ください。詳しくはいたがき京都御池店までお問い合わせください。
大使館の多い麻布十番周辺は、六本木も散策圏内という、国際的で都会的な地域でありながら、創業100年を越す老舗も多く、下町の魅力も併せ持つ街です。間口の小さな飲食店やこだわりの洋品店などが軒を連ね、何度訪れても新たな発見に溢れています。
秋から冬にかけてはイベントも多く、いたがき麻布十番店近くのパティオ十番や六本木ヒルズ、東京ミッドタウンなどで開催される クリスマスイルミネーションは特におすすめです。夜遅くまで点灯しているので、当店にお越しの際は、ぜひ界隈の下町歩きからアーバンな六本木への散策をお楽しみください。
今年は3回に渡り「素材へのこだわり」をご紹介しました。いたがきの源流である革、鞄づくりに不可欠な金具や内装地、また道具や梱包材など、多くの方々との関わりによっていたがき製品が作られていることを改めて実感した、感謝の一年でした。
来年度のかわら版も、どうぞお楽しみに。