いたがきに関する話題をお届けしている年3回発行の「いたがき通信」
今回の特集は
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東京都台東区、様々な工房が軒を連ねる 下町にある、昭和42年創業の井上金版さん。お客様から届くデザイン画を真鍮に焼き写すと、あとは腕一本、全て手作業で削っていきます。両手の感覚だけで刃を動かし、驚くほど細かな文字も削り出します。
そうして出来上がった版は革製品や、工 事現場等のプレートへ印字するために使われます。井上さんは、版を押す素材が革なのか、プラスチックや紙なのかによって微妙に仕上がりを変えていて、その手加減はまさに職人技。井上さんは「それほどのことではないけど」と謙虚に仰っていました。
今では安価な海外製や、プリンターの発達に影響され、版工房もだんだんと少なくなってきています。しかし、職人の手で作られる精巧な版は、革製品づくりには不可欠なもの。井上さんの版が、革製品の仕上がりをぐっと引き締めてくれます。
隅田川沿いには川上から川下に向かって、皮革工場→金具や生地工場→鞄や靴の工房→浅草橋周辺の問屋→日本橋周辺のデパートらが、材料から製品になり販売されるまでの順に並んでいます。これは、川の流れが交通路として利用されてきた、かつての名残なのだそう。
いたがきの金具を依頼しているブレインズさん、M&Kヨコヤさんも賑やかな浅草の問屋街にあります。長い歴史と広いネットワークで、金具のことなら何でも相談に乗ってくれる心強い味方。
いたがき製品の金具は、真鍮製にこだわっています。真鍮は、殺菌作用があり馬の肌に優しいことから馬具にも使用されている安心な金属です。また、タンニンなめしの革と同様に、使うほど味が出てくるという、他の金属には無い特徴も魅力。
革を傷めないベルトのバックルやいたがきの代表作・鞍シリーズの「あぶみ」、いたがき創業30周年の記念に販売した「鞍チャーム」も、真鍮製のオリジナル金具です。
いたがき製品が収まる箱の製作をお願いしているのは、北海道・旭川の広大な自然の中に工場を構える片桐紙器さん。明治44年にロウソクやお菓子の箱造りを始めた、北海道では数少ない創業百年を超える老舗メーカーです。
最新鋭の機械が猛スピードで仕上げていく段ボール箱から、ひとつひとつ人の手で仕上げていく化粧箱まで、実に1万8000種類の箱を製作されています。家具のまち旭川ならではの、家具用の大型ダンボールは1点もので、それらも全て手作業で作られています。これほど多種多様な商品を製作する工場は珍しいそうです。
箱の素材となる紙は、湿度など気候の影響を強く受けてしまうため、工場内の空調管理はもちろん、季節によって糊の粘度を変えるなど繊細な技術を要します。浅井社長は、「箱は、作りが簡単なだけに、精度が求めら れるものです。」と妥協しないプロの姿勢を教えてくださいました。
今回ご紹介した以外にも、いたがき製品はたくさんのプロフェッショナルに支えられてできています。皆さんの力をお借りして、これからもより良い製品作りを目指してまいります!
シンプル束入れ
9,720 円 (税込)
お客様からの第一声は「これはどのように使うの?」E180シンプル束入れは、2つの札入れが入れ子式になっており、内側の札入れは仕切りとして使用したり、お札の種類を分けることもできます。また、別売りのカードケースを収納したり、状況によって様々な使い方が可能なお財布です。
「シンプル」という名の通り、いたがきのお財布の中でも1番薄く持つことができ、ビジネスマンのジャケットの内ポケットや和装時の帯の中への収納にも最適です。入れ子式という個性的な発想を、シンプルなデザインに仕上げたこちらの商品。普段使うお財布だからこそ、こだわりのある商品を。そんな方にはピッタリのお財布です。
販売部(入社2年目) 岩淵 登夢
E180はとてもシンプルな作りですが、それ故に革の質が最も試される製品です。薄くても型くずれしないのは堅牢なタンニンなめし革だからこそ。この束入れのように、革本来の良さが一番分かるのは、裏地を張らない一枚革の状態だと私は思います。
「TE568 クラシカルショルダー」もそんな一枚革の良さや、革の厚みを最大限に活かしたいという思いで開発しました。原型は、社員の技術向上の為に毎月行っている「スキルアップ研修」で生まれた鞄でしたが、改良を重ね製品化にまで至り自分でも驚いています。
厚く丈夫なのに軽く、いつまでもコシのあるタンニンなめしの革は、いたがきの一番のこだわりです。どちらもその良さを感じて頂ける製品ですので、ぜひ違いを試してみて欲しいと思います。
製造部責任者(入社12年目) 伊藤 博之
遠い昔、まだ電気が一般的ではなかった頃、鞄は手縫いで仕上げられていました。太番手の糸に松やにと蜜蝋を混ぜ合わせたものをひいて、二本の手縫い針で縫い上げていましたが、今は手縫いをしなければならない要所を除いてはパワーのあるミシンで縫っています。
糸はポリエステル100%の素材で3本の細い糸が1本に撚(よ)られています。このミシン糸は弾力性があり人の力で引き千切ることは出来ない程の堅牢さを兼ね備え、とても丈夫です。鞄の大きさ、革の厚さによって糸の番手(太さ)も違い、タンニンなめしの牛革は厚く、堅い素材なので、糸調子に締りを持たせるために、上糸より下糸は番手を一つ落としています。全ての糸留めは手作業で行います。通常は返し縫いをして焼きごてやライターで溶かして留めますが、ほつれてはならない要所は手で結んで留めています。
革製品を長年お使いになると、糸も風化して弱くなりますが、ほつれてきた場合応急処置として、ライターの火をかざして、軽く留めておく事をお薦めします。
修理前20年程前に購入され、長い間しまわれていたもの。久しぶりに見てみたら内装の合皮が風化して傷んでしまっていたので、内装を新しく本革に交換されることに。(現行品では、内装に再生革〈Wintan〉を使用しています。)
丁寧に糸を解きながら解体します。内装も剥がしていきます。
内装用に薄く漉(す)いた革を貼りあわせます。
解体前の針穴に沿って縫い合わせます。肝心な部分は手縫いでより丈夫に仕上げていきます。
革の縁(コバ)を磨き直し、保護クリームで革表面の状態を整えます。
昨年7月、赤平本店内にオープンした「いたがきcafé」。テラスから望む山々の緑も日ごとに色濃くなり、間もなく一年のうちのベストシーズンを迎えようとしています。
今回ご紹介するのは、そんないたがきcaféのコーヒー豆を作ってくださっている、旭川の珈琲焙煎工房・昭平堂さんです。 旭川駅から車で10分程のところにある白壁の蔵が目印のお店で、中は店舗兼焙煎工房になっています。
重厚感のあるドイツ製のローストマシンが並ぶ工房は、環境にも配慮した設備で、焙煎の際に出る煙は高温で処理され、二酸化炭素の排出を抑えています。いたがきcaféで使用している豆は、昭平堂さんオリジナルブレンド。4種類の豆を使用した、コクと甘みが特徴の深い香ばしさを楽しめるコーヒーです。
心地よい風が吹くテラス席で、こだわりのコーヒーを飲みながら、こだわりの革製品をゆっくりとご覧ください。
新千歳空港ではこの春、滑走路が一望出来る展望デッキが開放され、館内の見学ツアーなど様々なイベントが催されています。リニューアルしたお店も多くありますので、散策するだけでも楽しめます。
いたがき新千歳空港クラフトスタジオ店は、ターミナルビル2階の、南側スイーツアベニューの奥にございます。夏の北海道へお越しの際は、ぜひお立ち寄りください。
今号では、長くいたがきがお世話になっている副素材の製造会社様をご紹介しました。誌面では紹介出来なかった道具屋さんや材料屋さんもまだまだたくさんありますが、このように多くの人の手に支えられ、いたがき製品は作られています。
次号では革の本場、ヨーロッパでの素材探求についてご紹介いたします。どうぞお楽しみに。